我が社の場合二次面接は通常、面接員(面接官と云う言い回しは何となく上から目線なような気がして使いませんでした)二名対受験者一名で行います。一名当たり50分、一日当たり8名、これを毎日10チーム程度実施します。夕方近くともなると我々も疲れ切って妙なことを口走ることもありました。
その学生さんは毎朝必ず読売、朝日、それに日経に目を通していることを強くアピールしたいようだった。
「今朝の一面は代理妻に関する記事でしたね」とまず私が口火を切る。
「そうです、そうです。僕も以前から関心を持っていましたので特に興味深く記事を読みました」と学生さん。
ここで突然、私は自分の言い間違いに気付きギクッとしたが、相手の学生さんも、また隣席の面接員も何も気付いていない様子だ。学生さんは各朝刊一面の記事と経済面の記事を十分読み込んで来ており、また彼自身の見解にも絶大な自信を持っているらしく、とうとうと自説を開陳してくれた。
「…生まれた子供が物心ついた時や生んだ母親の情のようなものが途中で大きく変わった場合、それから、誰かの金銭的な欲がふくらんできた場合、など色々な観点から検討しなければならない問題が山積みだと思いました」
私の相棒面接員も「本当にそうですね。国際的にもコンセンサスを得られる倫理的なプロセスを早急に確定することも必要ですね」などと相槌を打っている。学生さんの説明には好印象を持ったようだ。
一方、私の方はと云えば「昼下がりの団地 ザ代理妻」などという日活ポルノ映画風ポスターの絵柄が思い浮かび、早く話題を変えねばとあせりにあせっていた。今更、代理母と云うつもりだったと訂正するわけにもいかないし…。