目覚ましはセットしていないはずだが、と思いながらも慌てて枕もとのスマホを手に取った。すでに自動的に画面に何やら文字が現われているが、眼鏡をかけていないのでよく見えない。その代わり耳にはスマホからの音声が緊急事態を告げていることがわかる。9月15日、午前7時、私は岩手県内の村に宿泊していた。J-アラートの発令である。屋外では役場からの緊急放送が流れている。サイレン様の低くくぐもった音に重なって職員が告知する音声が聞こえる。地域の年寄りにも聞き取れるよう配慮しているのかゆっくり喋っているようだが音が割れていて何を言っているのか全く分からない。結局10分近く情報提供が続いたが、午前6時57分頃、北朝鮮西部、平壌付近からミサイルが発射され、10~20分でこの辺りを通過する見込みということらしい。その間なるべく家の中の一番広い部屋の、壁から離れた中央部で頭を抱えて伏せた格好をしているように、という指示だった。
午後になって村の人に聞いた話だが、登校するため丁度その時間は家の玄関口にいた子供が多かったようだ。子供達は恐怖でパニックを起こしたり、逆に興奮して騒ぎまくることもなく淡々と日頃の指導とこのJ-アラートに黙々と従っていたようだが、決して子供らしく明るいとはいえない悟ったような顔つきをしていたらしい。恐怖ではなく、むしろ何かを憐れむような暗い目つきだったと聞いた時には胸が痛んだ。世界中の戦争やテロを起こし、あるいはそれを止められなかった大人はともかく、いたいけな、無辜の子供達を殺した大人たちを神は生涯赦すべきでないと強く思った。