浅井さんは私より5歳ほど若い大学の後輩である。知り合った初日から感じたことだが、彼よりユーモアのセンスが私と合う人に出会ったことはなかった。
彼は音楽、それもクラシックが趣味らしいが、最も好きな指揮者はカラヤンだそうだ。私もカラヤンの名前くらいは知っていたが、‘どこが好きか’と聞くと、指揮は言うまでもなく‘カラヤンの生活態度から風貌、教養、生活全てが好きで憧れている’と言う。最近は特に思いが募り、‘外見だけでも真似したくなり、髪を伸ばしてオールバックにしてみた‘と言う。「で、どうだった」と聞くと「ダメでした」と答えたので、「どう駄目だったんだ」と重ねて聞くと、「ターザンに似てしまいました」と言っていた。
その浅井さんが当時はやっていた8ミリで西部劇を作ったので是非見て欲しいと言うので、私の友達も集めて映写会を開くことにした。
配役は主役のヒーローが彼の弟で、他に敵役として弟の友達二人が出演するとのこと。弟はカウボーイのテンガロンハット風の帽子に、かなり長めのブーツを履いている。腰には勿論拳銃を帯びて、大股でゆっくりこちらに向かって歩いてくる。ただ、モノクロ、無声なので浅井さんが口頭でストーリーと制作裏話を話してくれた。コルトは浅井さんのモデルガンでかなり高価なものらしく立派な物だが、衣装は全て父親からの借り物だそうだ。ハットはカンカン帽だろうが、大きいので時々ずり下がってくるし、ブーツはゴム長なので、「何だか魚屋の決闘みたいですね」と浅井さん、自分で言っている。10分足らずの黒白映画だったが、‘Produced by’(+勿論彼の名前)や‘Cast’の氏名もアルファベット書きで、弟をトップに友達二人の名前も映されていたが、私は映写中一人を見落としたらしく、その一人の出番を聞くと、浅井さん、「撮影の日になってその友達が休んでしまったんで…」。念のため「その友達どんな役?」と聞くと、「崖から落ちる役でした」。